ドルが上がったり下がったりするのに関係あるのニャ?
今日はその仕組みと、これからの見通しを分かりやすく解説するね。
こんにちは!この記事では、世界中の経済ニュースの中心となっている「トランプ氏の関税政策」と、それに対する「日米の合意」が、私たちFXトレーダーにどのような影響を与えるのか、
そして今後どのように相場と向き合っていくべきかを、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
すべての始まり:トランプ氏の関税政策と急転直下の日米合意
まず、今回の騒動の根本にあるトランプ氏の考え方と、それを巡って日本がどのような合意に至ったのかを理解することが、すべてのスタート地点となります。
世界を揺るがした「相互関税」とは?
トランプ氏の関税政策の根幹には、「米国の巨額な貿易赤字を解消する」という強い目的があります 。そのための強力な手段として打ち出されたのが「相互関税(Reciprocal Tariff)」です 。
これは、非常にシンプルな考え方に基づいています。例えば、ある国が米国製の自動車に20%の関税をかけているなら、米国もその国から輸入される自動車に同じ20%の関税をかける、というものです。さらに、これに加えて全ての輸入品に一律で10%の「ベースライン関税」を課すという構想も示されました 。
この政策は日本だけでなく、中国、欧州連合(EU)、カナダ、メキシコなど、米国の主要な貿易相手国すべてを対象としており、世界経済全体に大きな不確実性をもたらしました 。
実際に、2025年4月に関税の詳細が発表された際には、世界中の株価が急落し、米国では株、債券、ドルが同時に売られる「トリプル安」という深刻な事態も発生しました 。
最悪の事態を回避した「日米合意」の舞台裏
この相互関税の脅威のもと、日本にはすべての品目に最大で25%という非常に高い関税が課される可能性が迫っていました 。もしこれが実現すれば、日本の基幹産業である自動車産業をはじめ、多くの輸出企業が大打撃を受け、日本経済全体が深刻なダメージを負うことは避けられない状況でした。
しかし、2025年7月23日、事態は急転直下で動きます。日米両政府が関税交渉で合意に達したと発表したのです 。この合意の最大のポイントは、懸念されていた25%の相互関税が「15%」に引き下げられたことです 。これにより、日本は最悪のシナリオを回避することに成功しました。
ただし、この関税引き下げは、日本側の大きな譲歩と引き換えでした。その決め手となったのが、日本による総額5,500億ドル(約80兆円)にも上る大規模な対米投資の約束です 。
この投資は、トランプ大統領の任期中に達成することを目指しており 、半導体、AI、エネルギー、医薬品、自動車といった経済安全保障上、重要な分野を対象としています 。目的は、日米双方に利益のある強固な供給網(サプライチェーン)を構築することにあります 。
さらに日本は、
- 米国製の防衛装備品を毎年数十億ドル規模で追加購入すること
- ボーイング社の航空機100機を含む、米国産民間航空機を購入すること
- 米を含む米国産農産物の輸入を拡大すること
なども約束しました。
この合意は、単に関税率の数字が変わっただけではありません。
かつてのような自由な貿易ではなく、巨額の投資や購入といった「取引(ディール)」を通じて、相手国への市場アクセスが決まるという、新しい時代の幕開けを象徴する出来事とも言えるでしょう。
為替市場はどう動いたか?FXトレーダーが知るべき「綱引き」のメカニズム
では、こうした政治的な動きが、為替相場、特に私たちに身近なドル円(USD/JPY)にどのような影響を与えたのでしょうか。
ここには、FX初心者が必ず知っておくべき「綱引き」のメカニズムが存在します。
円高 vs 円安:トランプ関税が引き起こす二つの力
トランプ氏の関税に関するニュースが出ると、為替市場では「円高に進む力」と「円安に進む力」の二つが同時に発生し、激しい綱引きを始めます 。
【円高に進む力】 景気後退への懸念とリスク回避
高い関税は、輸入品の価格を上昇させ、企業のコストを増やし、最終的には消費者の負担となります。これにより米国経済、ひいては世界経済全体が冷え込み、景気後退に陥るのではないかという懸念が高まります 。
市場がこのような不安に包まれると、投資家はリスクの高い資産を売り、より安全とされる資産にお金を移します。この「リスク回避(リスクオフ)」の動きの中で、日本の円は伝統的に「安全資産」と見なされるため、買われやすくなります。円が買われると、円の価値が上がるため「円高・ドル安」(USD/JPYは下落)が進みます 。
【円安に進む力】 米国のインフレ懸念と日米金利差
一方、関税によって輸入品の価格が上がると、米国内で物価上昇、つまりインフレが起きやすくなります 。インフレを抑えるために、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は、金利を高い水準で維持せざるを得なくなります 。日本が超低金利を続ける中で、米国の金利が高いままだと、日米の金利差は開いたままになります。
FXの基本として、金利の高い通貨は低い通貨よりも魅力的に映るため、円を売ってドルを買う動きが強まります。これにより「円安・ドル高」(USD/JPYは上昇)が進むのです 。
日米合意は「リスクオン」の合図だった
今回の「日米合意」のニュースは、この綱引きにおいて、円安方向への力を強く後押しする結果となりました。最悪のシナリオであった「25%関税」が回避されたことで、市場に広がっていた「景気後退への過度な懸念」が和らいだからです 。
これにより、投資家の心理はリスク回避の「リスクオフ」から、積極的にリスクを取る「リスクオン」へと転換しました。安全資産である円を売って、より高いリターンが期待できるドルや株式などを買う動きが活発になり、ドル円は上昇したのです 。
このように、近年の為替市場は、経済指標の数字だけでなく、一つの政治的なニュースや要人発言でムードが一変し、相場が大きく動く「ヘッドライン相場」の様相を強めていることを覚えておく必要があります。
FXトレーダーの視点:トランプ相場の賢い歩き方と今後の展望
最後に、こうした状況を踏まえて、私たちFXトレーダーはどのように相場と向き合っていけばよいのか、具体的な戦略と心構えについて考えてみましょう。
噂で買って事実で売る?「TACOトレード」戦略とは
トランプ氏の関税を巡る相場では、「TACOトレード」と呼ばれる特徴的な取引戦略が注目されました 。
TACOとは「Trump Always Chickens Out(トランプはいつも土壇場で引き下がる)」の頭文字を取ったものです。これは、過去に繰り返されてきた次のような値動きのパターンを利用する戦略です 。
- 脅威の発動 :トランプ氏が突然、高関税などの強硬な政策を発表。市場はパニックに陥り、株価やドル円は急落します 。
- 交渉と転換 :その後、交渉期間を経て、トランプ氏が態度を軟化させたり、関税の発動を延期したり、今回の日米合意のように何らかのディール(取引)を成立させます。
- 相場の反発 :脅威が去った安心感から、市場は急落前の水準まで反発します。株価やドル円は上昇に転じます。
TACOトレードは、この①のパニック的な下落局面で「買い」、③の反発局面で「売る」ことで利益を狙う逆張り戦略です 。
これは、多くの市場参加者が感情的にパニック売りをするタイミングを狙う、いわばプロの投資家的な思考に基づいています 。しかし、これは非常に高いリスクを伴う戦略であり、必ず損切り(ストップロス)注文を入れるなどの徹底したリスク管理が不可欠です 。
また、多くのトレーダーがこのパターンを意識するようになると、以前ほど効果的でなくなる可能性も指摘されています 。
今後の展望と心構え:不確実な時代を乗り切るために
日米合意によって日本に関する目先の不確実性は低下しましたが、トランプ氏が関税を交渉のカードとして使う姿勢に変わりはありません 。
今後も他の国との交渉などで、為替市場が突然大きく動く可能性は常に残っています 。AIによる分析では、今後のドル円相場は複数のシナリオによって大きく変動する可能性が示唆されており、段階的な円安ドル高が進むことが予測されていますが、不確実性は高いままです 。
このような時代を乗り切るために、私たちトレーダーが持つべき心構えは以下の通りです。
政治ニュースが相場を動かす「ヘッドライン相場」では、最新情報を素早くキャッチすることが重要です 。
予期せぬ急変動から資金を守るため、取引する際には必ずストップロス注文を設定する習慣をつけましょう 。
市場がパニックに陥っている時こそ、一歩引いて冷静に状況を分析することが大切です。感情的な取引は大きな損失につながります。
トランプ氏の関税問題は、為替市場の複雑さと面白さを同時に教えてくれます。この経験を学びとして、より賢いトレーダーを目指していきましょう。
まとめ
今回の内容を最後にまとめます。
- トランプ氏の「相互関税」は、米国の貿易赤字是正を目的とした政策で、世界経済に大きな不確実性をもたらしました。
- 2025年7月の日米合意により、日本への関税は25%から15%に引き下げられましたが、日本は80兆円規模の対米投資や防衛装備品の購入など大きな譲歩をしました。
- 為替市場では、関税のニュースは「景気後退懸念による円高」と「インフレ懸念による円安」の綱引きを引き起こします。日米合意はリスク懸念を和らげ、円安方向に作用しました。
- 「TACOトレード」のような政治ニュースのパターンを利用した取引戦略も存在しますが、高いリスクを伴うため、徹底したリスク管理が不可欠です。
- 今後も通商問題は為替相場の主要な変動要因であり続けるため、常に最新情報に注意を払い、冷静な判断を心がけることが重要です。